11月6日、死にたいと思わない夜に、わたしは薬を飲む


瞼を開けたら11月になっていた。
なんて、さすがに例えだけれど
陽が差し込みやすくなるのは冬が近づいている証拠だなと思い、
部屋に立ち寄るあたたかな光にそっと足を伸ばす。

今日が埋もれていくような感覚を許せないから
コーヒーを挽いて入れているんだよ。
それは日常のようでもあるし儀式のようでもある。
そこに断絶なんてないんだよ。
タバコの火をつける時に火をそっと守るようにしていると
原始の風景を見ているようで懐かしくなるんだけど、
深呼吸もため息も混ぜこぜの煙が空に溶けてゆくと
タバコをやめた、あなたはどう?と名前を不意に思い出す。

気が付いたら飛行機雲を追いかけて歩いていた。
毎日変わってゆく、吹く風の匂いが際立つ季節の名前を知らないけれど
その風に押された産毛が揺れて、こんなにも世界と溶け合う体が愛おしくて哀しい。
あなたのいない世界は思いの外、寂しくて、わたしは寝起きの合間に時々泣く。
その涙すら乾かそうとする風にあなたを感じた時、この世界のやさしさを感じるのだ。
なんだ、ずっとひとりではなかったのだと思う。
死にたいと思わない夜になんだか泣けてきたりする。
あなたは死にたかったのに、実際去ったのに。
わたしは折りたたみ式の悲しみを脇に挟んで、
それがないと生きていけない気がしている。
撮ることも、書くことも、あなたがくれたのだ。
それが悲しいと思いながらもそれで生きながらえている。
今生きている誰かの表情を見て、それをうつくしく思い
ああ、生きていてよかったとすら思える。
全部ひっくるめたこの悲しみですらも、あなたがくれたのだ。
この生を愛することができるようになったわたしを、あなたがくれたのだ。

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