8月15日、pretender


ほんとうは眠り姫になるため生まれてきたの。
誰もうまれないし誰も死なない世界に生きたいの。
きみは生まれた。だから居なくなった。
きみとわたしの接点はこの部屋だけだった。
夢を見ている。夢を見ていた。夢は覚める。わたしだけが瞼をあけた。


胸のどこぞに誰かがなぞった線の内側。マリアは眠ってなどいない

音のない扇風機の風その風はきみのいなくなった日そのものなんだよ

ほんとうはしあわせになれたはずなのに裸足で貝殻の海岸線を踏む


彼とは部屋の中でしか会わない
彼とは夜中にしか会わない。窓を閉め切ってクーラーで冷えた部屋には、魚のぶくぶくのモーター音だけが響いている。
彼はまだ薬は飲まないで、という。手を繋いでベッドまでのそのそと動く。
彼とわたしはいつのまにか眠ってしまう
彼は起きないけれど、わたしは起きる。不安で不安で不安で、わたしは起きる。
彼を起こそうとはしない。それは優しさの類ではない。ひとりぼっちなのだ。いいようのない孤独。冷えた部屋はひとりで煙草を吸うには寒い。
彼に抱きしめて欲しいとおもう。でもそれは叶わない。
彼は眠っている。わたしたちはシンクで砂抜きされているアサリだ。
彼が朝日で起きるといいなと思う。健やかに目覚めるといいなと、ただそれだけを思う。少し不安が減る。
彼を玄関で見送る。わたしは一歩も外に出ない。夏の外気を吸い込めてまたね、という。
彼とは部屋の中でしか会わない。今日はひとりの気分なのと断る日もある。どこかに連れて行って欲しくてもそんなこと言わずに、ひとりはさみしいのにそれを選ぶ日もある。


死にたいと思ってしまう帰り道枯れていた花に水をやる朝

誰のために付けっ放したクーラーのことを思ってストローを噛む

シャッターの速度できみを見ていない日の丸みたいな目をして泣きたい


確かなものを得れば得るほど
それがなくなってしまったときの喪失感は大きいものだ。
触れられたあなたがもうここにいない。その事実に何度も挫けてきた。
繋ぎとめようとしてきた写真や書き物はわたしをがんじがらめにする呪いだった。
それでもそれ以上に救われてきた。
あなたとわたしがいたこと。ちゃんと時間を半分こにしてきたこと。その掴めなくなってしまった輪郭だけに、ちゃんと救われてきた。


くる波のかき消す声など届かない、祈りのためにきちんと泣こう

目をつむり動かぬペンギンよかったら散歩をご一緒しませんか













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