10月7日、傘
秋の長雨が降り続いて、どうにも体がいうことをきかない。
「消えてしまいたい」と泣きじゃくり、薬をすべて捨て、
やさしい人の声に耳を傾けながら今日も生きている。
涼しくなった風に吹かれながら、空を見上げながら
危なっかしい足取りでようやっと、生きている。
ああ、このまま大人になってゆくのかなって そんな問い。
色を帯びてゆくアイスコーヒ
氷が溶けて薄まってゆく淡い雪や淡い花の季節のようなグラデーション
朝6時、開け放たれた窓からは 相も変わらずに雨と秋の匂いがした。
愛する人は隣で健やかな呼吸を繰り返し眠っている。
わたしはその人がどんな夢を見ているのかも知らぬまま
少しだけ、そうっとその人の頬を撫でる。
いつも声が聴きたくて、会いたいのはわたしだ。
愛する人が生きていることが嬉しい。
穏やかな胸の上下にわたしは甘い夢を見る。
四六時中、その奇跡を知りたいという願いはきっとわがままだ。
でも、甘い夢ならずっと見ていたいものでしょう。 許されるならずっと、ずっと。
どうしてみんな過ぎてしまうの、と 泣いた夜は数え切れないほどになったのに
痛みも消えないままなのに 割り切れないことが増えていくのに
わたしはまだ生きている。
わたしの頬を撫でるのはきみの手ではなくなって 世界になった。
うろこ雲。どぶ川。赤信号。
いつか、みんないつかはいなくなることだけが救いだと言った。
ほんとうはかなしいのに
ほんとうはさみしいのに
うそをついたつもりはないから心がスースーする
ハッカのキャンディーを舐めたことがないから
口の中じゃなくてこころがスースーとする
あの頃と今と未来と
変わらないのはたった1人で生きてゆくということで
変わらないことに苛立ちを覚える。腹が立つ。
わたしたちってば 危なっかしいほど曖昧に愛し合ってたね
けれどそれはどんな宝石よりも美しく、強く、確かだったね
あんな甘さで軽やかさで不完全さでろくな覚悟もせずに
2人だけの王国に連れて行ってくれたきみをまだすきなままだ
わたしだけ、二人のことを懐かしく思う。そう秋の夜。
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