10月23日、マヨイガ
生まれてはじめてこれから別れゆく恋人に「本当は別れたくない」と心を打ち明けました。
本当はバイバイなんてしたくない、でも、どうにかなるなんて思ってない、諦めと言いたくない諦めの気持ちの中で自分の気持ちをただ伝えるためだけに、それを恋人に打ち明けました。わたしの熱量で、届かなくても、響かなくても、この切実さを今渡せるのは、それをくれた恋人だけだったからでした。
もう会うことなどなくてもどこかで生きていてくれたらいい
わたしが今のわたしのままじゃあ一緒にいられない
あなただけじゃなく、そうやって今までいろんなもののせいにして蓋をして、誤魔化して、飲み込もうとして手放してきたあらゆる人やものやコトにわたしがかけてきた言葉。これから先、写真を撮っていくのならば自分に向き合わないといけないな。いつまでこのままなのかな、ってごちた幼かったわたしが顔を出して、そうっと少しだけ大人になったわたしの顔を覗く。でも、それをするにはもうひとりではできないとわかってしまったから。恋人、ありがとう。教えてくれて。
気持ちを渡そうと思ったのにはきっかけがありました。2011年に川内倫子がひらいた『ILLUMINANCE』という展示の写真集が新しい装丁で出版されていて、その写真集を買ったからでした。
二日酔いの頭で、朝の光の中で見る写真集は全部ページを捲るのにえらく時間がかかりました。その展示のあった年にわたしは写真を始めたのですが、この展覧会はその時期にみた大きな写真展の中でも一等に好きな展示でした。
初期衝動。
つらいかなしいわすれることがこわいと泣きながら撮らずにはいられなかった日々。もうあの時間は帰ってこない。もう同じ時間を、切実さを味わうことはないでしょう。ずっとかなしいままなんだと思ってたわたしも時間を信じられるようになった。なってしまった。
かなしみが終わってしまうかなしみの中にいて、ただ、そこにいて、恋人に出逢えたことは大きな出来事でした。出会って、好きになって、一緒に暮らして、別れゆく。誰かと暮らすことができて、毎日おどろきと感動と気付きがキラキラと溢れていて、それが本当にきれいで、嬉しかったし楽しかった。こんなに素直に毎日よろこんでいられるなんて思わなくて、このまっさらなよろこびをただ続けていくのかもしれない未来に想いを馳せたりして。うっとりとあなたの寝顔を見つめた時間を、わたしはこれから生きていく時間の中でずっと大事にしていこうと思いました。別れの空気が二人を包んでいた夜も、もう本当はずっと、誰も何も自分の手から離れてゆくのがさびしいのだと、そんなの当たり前だよって笑われそうな気持ちにも出会ったりして。こんな時ですらあなたはわたしに与えてくれるんだねと思っていました。完璧な時間は続かないもんですね。
そばにいてってたくさん言わせてくれて、子供みたいにはしゃがせてくれてありがとう。
わたしが写真を続けている限りまたいつか、と言ってくれてありがとう。
写真の中で何度も触ってね。
かなしみは切実だった。
何かを表現するには十分過ぎるくらい。
でも、よろこびも切実なのでした。
この体、全部使っても吸い込めないたくさんの何か。
そんな時に先に書いた写真集に出会って、手にとって、また気づいてしまった。
「愛にできることはまだあるかい?僕にできることはまだあるかい?」洋次郎にもありがとう。
そんな気持ちで、愛にくるまれたわたしで、これからできることがあるって予感に包まれています。
そして部屋にいい陽が射す。
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